EHアンテナの接地
EHアンテナの位相遅延コイルユニット(灰色の筒部)の下面には、M型コネクタとは別に、GND端子があります。写真では、緑色のアース線が接続されている箇所になります。現在では改訂されているかもしれませんが、当局がEHアンテナを購入した際のマニュアルには、当該端子の説明がありませんでした。エフアールラジオ・ラボに電子メールで問い合わせをしましたところ、「GND端子です.接地されたマストに出来るだけ短い線で接続願います.」との回答を頂きました。また、接地については、「D種の100Ω以下の簡易な接地で十分です.」とのことでした。エフアールラジオ・ラボ製のEHアンテナの使用において、このGND端子の扱いはとても重要だと思います。2012年になって公表されたエフアールラジオ・ラボの技術資料「EHアンテナの上手な使い方」(p.11参照)にも、Vシリーズ・Hシリーズのアンテナともに、接地なしにはアンテナとして動作しない旨が記載されています。
【Fig.1b】
エフアールラジオ・ラボ製のVシリーズ・EHアンテナでは、垂直エレメントの長さを調節することで中心周波数を、位相遅延コイルユニット内の回転部材の位置を調節することでSWR値を、それぞれ調整できます。
EHアンテナはアースが不要というような情報もありましたので、当初はこのGND端子を使用せずにSWR値の調整を試みましたが、SWR値を実用範囲に調整することはできませんでした。
はて、困りました。木造住宅2階のベランダで「短いアース線を介して、D種レベルの接地を行う。」ことなどできるのでしょうか。
そこで、【Fig.3a】に掲載しましたアルミ製ベランダ屋根をカウンターポイズとして使用できないかと思い、上記GND端子と屋根の枠状構造材との間を約300mm長のアース線(外径φ5mm)で接続してみました。すると、SWR値を実用範囲へと調整することができました。写真は、屋根の枠状構造材へのアース線の接続部です。ただ、上記技術資料(p.11参照)では、EHアンテナでは「カウンターポイズは利用できません」と言及されていいます。
【Fig.2b】
しばらく、【Fig.2b】で説明した態様で運用をしていましたが、天候や気温に応じて特性が変わるようで、中心周波数やSWR値が運用の度に大きく変化するような状況でした。特に、真夏の日中では、中心周波数がどこであるのかがわからないほど、SWR値が上がってしまう状況でした。
そこで、技術的意義は不明なままではありますが、屋根から地面への接地線を竪樋に沿って設けることにしてみました。地中には600mm長のアース棒を埋設してあります。この接地線は、涼しくなった秋に設置しましたので、真夏における上記特性変化の低減に寄与しているかは確認できていません。また、接地線を設けた後においても、運用の度に、SWR値は微妙に変化する状態です。
【Fig.3b】
【Fig.4b】
【Fig.5b】
SWR値の測定結果
アンテナの一応の調整を終えた状態で、リグ(アイコム社製のIC-7000M)のSWR測定機能(マニュアルp.79~80参照)を利用して、SWR特性を測定しました。写真は、リグの表示画面を撮影したもので、画面の下部に棒グラフ状のSWR測定結果が表示されています。測定結果画面の見方ですが、縦軸がSWR値、横軸が周波数で表示されています。最下部中央に「▲」印がある部分が、7.093MHzでの測定結果を意味し、各棒が10kHzステップで横軸方向に順に表示されています。縦軸は、左右に表示されている軸上で、緑色で表示されている1目盛り目がSWR値が約1.5であることを意味し、最上部でSWR値が4、最下部でSWR値が1であることをそれぞれ意味しています。したがって、写真のものでは、7.033~7.153MHzの範囲で、SWR値が1.5以下となっていることがわかります。
【Fig.6b】
【Fig.7b】は、【Fig.6b】の状態において、測定範囲を7.073~7.193MHzにした場合の結果です。7.163MHz以上では棒グラフの最上部に赤い表示がはっきり現れ、SWR値が1.5を超えています。アンテナの垂直エレメントの長さを調節して、中心周波数をもう少し高い方にずらせば、概ね7MHz帯のバンド幅全体でSWR値を2.0以下にすることができると思われます。
【Fig.7b】
【Fig.8b】は、【Fig.6b】の状態から、【Fig.2b】に掲載のGND端子に接続されるアース線を開放した場合の測定結果です。SWR値が上昇し、縦軸を振り切ってしまっています。【Fig.2b】でも記載しましたように、GND端子を使用せずにSWR値を実用範囲に調整することはできませんでした。
【Fig.8b】
【Fig.9b】は、【Fig.6b】の状態から、【Fig.3b】に掲載の屋根から地面への接地線を開放した場合の測定結果です。SWR値が全体的に上昇するとともに、中心周波数も高い方向にずれている様子がわかります。
ただ、【Fig.2b】でも記載しましたように、この状態でも、位相遅延コイルユニット内の回転部材の位置を調節することで、ほぼ【Fig.6b】の状態程度のSWR値にまで調整することが可能でした。
【Fig.9b】
【Fig.10b】は、【Fig.6b】の状態から、【Fig.11a】に掲載のシャーシへのアース線を開放した場合の測定結果です。中心周波数が高い方向にずれていますが、SWR値に大きな変化はないようです。過去の試行錯誤の中では、僅かではありますがSWR値が上昇することもありました。
【Fig.10b】
【Fig.11b】及び【Fig.12b】は、給電用の同軸ケーブル(5D-2V、約7.5m長)の引き回し経路を変えることによる影響を確認するためのものです。【Fig.6b】及び【Fig.7b】の状態で、屋根を支えるアルミ製の垂直角柱(□70mm)から200~300mmほど離して同軸ケーブルを配線していたものを、角柱に沿わせるように変更した場合の測定結果です。全体的にSWR値が上昇し、中心周波数も10kHz程度高くなっており、同軸ケーブルの引き回しの変更による影響が見られます。ただ、中心周波数近傍での運用に悪影響を与えるほどではありません。
【Fig.11b】
【Fig.12b】
【Fig.13b】は、【Fig.7b】の状態における約3週間前の測定結果です。測定周波数が3kHzずれている点を考慮しても、【Fig.5b】で説明しました、運用日によるSWR値の微妙な変化を確認頂けると思います。
【Fig.5b】で説明しました接地線を設けた後も、運用日によっては、SWR値が大幅に上昇することもありました。全ての場合で原因が特定できている訳ではありませんが、【Fig.3b】に掲載の接地線の接触不良や同軸ケーブルコネクタ部の絶縁不良が原因であることもありました。
EHアンテナ関連のリファレンス
- 小暮裕明、「λ/100アンテナは夢か(第3回 EHアンテナ)」、CQ ham radio、2012年3月号、p.30-34
- 中西剛、「USER REPORT HシリーズEHアンテナ 80mバンド用 EH-DPH80」、CQ ham radio、2011年7月号、p.66-71
- 上銘正規、「EHアンテナの動作・特性についての補遺」、CQ ham radio、2008年12月号、p.96-101
- Vadim Demidov(抄訳:日下覚)、「MicrovertとEHアンテナの研究」、CQ ham radio、2008年11月号、p.78-85 (日下OM(JA1SCW)のホームページに全文訳と思われる記事が掲載されています。)
- 上銘正規、「EHアンテナの理論と製作ノウハウ 第1回」、CQ ham radio、2007年11月号、p.96-101 (2008年2月号までの全4回シリーズです。エフアールラジオ・ラボのホームページに転載(リンク切れ)されています。)
- 特表2006-507763号公報 (注: この公報は特許出願の内容を公表するもので、特許権が成立したことを公表するものではありません。特許電子図書館で調べましたところ、この公報に記載された出願は、日本の特許庁による審査の結果、拒絶をすべき旨の査定がされています。)
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